宗教、死後の世界、超能力(その3) 統一教会
さて、統一教会の本拠地に知らずにやって来た受験老人だったが、
その施設の幹部とも思われる青年(S)から、
「せっかくだから、話を聞いてくれ。」
といきなり言われ、どうしようかと悩んだ。
「あっ、もしかしてこれが勧誘か・・・・」と思った受験老人。
洗脳され、親も捨て、カネも全部取られ、廃人になる・・・・・
よくない噂が頭の中でぐるぐる回った。
思わず断ろうとしたが、一方で、断り切れない自分がいた。
そう、受験老人は「宗教に勧誘されやすい人」だったのだ。
****************************************************************************************
ここでちょっと背景として、受験老人が大学に入ってからの話をする。
もう40年以上も前のことである。
受験老人は、目指すT大に入り、意気揚々と田舎から上京してきた。
しかし、都会に圧倒された。
如才のないT大生たちの中で、明らかに浮いている自分を感じた。
そして、友達のできない空虚感と、疎外感から学校に行けなくなった。
大家が厳しいので下宿にいるわけにもいかず、家を出てはふらふらと街を歩き回った。
親から仕送りをもらうと、ゲームセンターに入り浸り、パチンコ屋にも入り浸った。
100円玉が湯水のように消えた。
それが終わると大きな書店に入り、あてどなく本を立ち読みした。
夜までそこにいて、そして下宿に帰った。大家は不審げに受験老人を見た。
毎日毎日、同じことの繰り返しだった。
自分はいったい何をやっているのかと自己嫌悪に陥った。
カネがなくなると、次の仕送りまでは飲まず食わずで過ごした。
親に申し訳ないという気持ちは強かったが、しかし、どうしようもなかった。
おかげでゲームの腕は上がった。
ブロック崩しはいつも最終面までいき、インベーダーゲームも全面クリアした。
パチンコもセミプロ級になった。ある馴染みの店ではたいてい勝つようになった。
しかし、不思議に思うことがあった。
いくら勝っても、換金時にもらえるお金が少ないのである。どう考えても比率が変だ。
何回か繰り返した後に、どうやら女店員がごまかしているのを知った。
このため、受験老人はパチンコの玉を金に換えずに、商品に換えることにした。
賞品にはきちんと玉数が書かれているから、ごまかしようがない。
それでも女店員はごまかそうとしたが、受験老人が指摘すると渋々商品に換えてくれた。
受験老人はカネがなく、とにかく食べ物に換えたかった。
甘いものが好きだったので、毎回勝つたびにアーモンドチョコに換えていた。
そして下宿に帰るとそれだけをバリバリと食べ、水を飲んだ。
そんな日が何日も続いた後、ある日鏡を覗いた。すると・・・・
そこには老人の姿が映っていた。
肌がカサカサになり、皺が寄った顔が。
受験老人はぎゃあと叫んだ。
そして受験老人は悟った。自分がどんなに親不孝をしていたかを。
親はこんな自分のためになけなしの金を送ってくれているのだ。
それから、少しだけ受験老人は変わった。
規則正しい生活をするようになった。そして我慢して大学に行くようにした。
受験老人は大学1年生の1年間、ほとんど全ての授業に出ていなかった。
おかげで成績はひどいものだった。
T大は2年生の後半から専門課程に進むが、その前に、進学振り分け、俗に言う「進フリ」という仕組みがあった。要は成績の上位の順から自分の好きな学科に行けるシステムだ。
成績が最底辺の受験老人は行くところがなかったが、たまたま、いいなと思った学科が簡単に行けるところだったおかげで、これ幸いと滑り込めた。
それは、あらゆる自然科学を網羅的に勉強させてくれるところだった。
・・・・奇跡的だった。落第もせず、まあまあ希望のところに入れたのだ。
*********************************************************************************************
すっかり脱線してしまった。
受験老人が教会に行ったのは、そうして専門課程に進級してしばらくしてのことだった。
進級したからには、心を入れ替え、一生懸命勉強しようとし始めていた矢先だった。
だが、実は受験老人は、学問に、次第に魅力を感じなくなってきていた。
受験老人は、やっと進学できたものの、人生とは何か、思い悩んでいたのだ。
大学に入る前に思い描いていた勉強と、実際に大学でする勉強は大いに違った。
こんな勉強、何のためにしなければならないのか。
もっともっと、人生で大切なものがあるのではないか。そう思うようになっていた。
人生の目的や意味はいったい何のためにあるのか、それを知ることが大切だと。
だから統一教会でSから、
「人間がなぜ生きているか、人生が何のためにあるか分かるよ。」
そう言われて、受験老人は食指が動いたのだ。
怖さを感じつつも、Sの言葉に引き込まれていくものを感じた。
Sは自信ありげに、しかし誠実かつ熱く、人生の目的を知る必要性を語った。
いつの間にか、一度くらい話を聞いてもいいだろうという気持ちになった。
受験老人が承知したとみると、Sは、おもむろに聖書の話を始めた。
それは、先生が生徒に話すような口調だった。
だが、抑揚があり、普通の教師よりはるかに分かりやすく、説得力があった。
それは、イエス・キリストの話ではなかった。愛にあふれた話ではなかった。
それは・・・・天地創造の話だった。驚くべき話だった。
受験老人は、その話に思わず引き込まれていく自分を感じた。
(次回に続く。)
このブログへのコメントは muragonにログインするか、
SNSアカウントを使用してください。