受験老人日記~高齢で医学部と司法試験に大挑戦~

還暦を迎えた男が、医学部と司法試験を同時に合格することを目指すという無謀な冒険に乗り出した

宗教、死後の世界、超能力(その3) 統一教会

さて、統一教会の本拠地に知らずにやって来た受験老人だったが、
その施設の幹部とも思われる青年(S)から、
「せっかくだから、話を聞いてくれ。」
といきなり言われ、どうしようかと悩んだ。


「あっ、もしかしてこれが勧誘か・・・・」と思った受験老人。
洗脳され、親も捨て、カネも全部取られ、廃人になる・・・・・
よくない噂が頭の中でぐるぐる回った。
思わず断ろうとしたが、一方で、断り切れない自分がいた。
そう、受験老人は「宗教に勧誘されやすい人」だったのだ。



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ここでちょっと背景として、受験老人が大学に入ってからの話をする。
もう40年以上も前のことである。


受験老人は、目指すT大に入り、意気揚々と田舎から上京してきた。
しかし、都会に圧倒された。
如才のないT大生たちの中で、明らかに浮いている自分を感じた。
そして、友達のできない空虚感と、疎外感から学校に行けなくなった。


大家が厳しいので下宿にいるわけにもいかず、家を出てはふらふらと街を歩き回った。
親から仕送りをもらうと、ゲームセンターに入り浸り、パチンコ屋にも入り浸った。
100円玉が湯水のように消えた。
それが終わると大きな書店に入り、あてどなく本を立ち読みした。
夜までそこにいて、そして下宿に帰った。大家は不審げに受験老人を見た。


毎日毎日、同じことの繰り返しだった。
自分はいったい何をやっているのかと自己嫌悪に陥った。


カネがなくなると、次の仕送りまでは飲まず食わずで過ごした。
親に申し訳ないという気持ちは強かったが、しかし、どうしようもなかった。


おかげでゲームの腕は上がった。
ブロック崩しはいつも最終面までいき、インベーダーゲームも全面クリアした。
パチンコもセミプロ級になった。ある馴染みの店ではたいてい勝つようになった。


しかし、不思議に思うことがあった。
いくら勝っても、換金時にもらえるお金が少ないのである。どう考えても比率が変だ。
何回か繰り返した後に、どうやら女店員がごまかしているのを知った。


このため、受験老人はパチンコの玉を金に換えずに、商品に換えることにした。
賞品にはきちんと玉数が書かれているから、ごまかしようがない。
それでも女店員はごまかそうとしたが、受験老人が指摘すると渋々商品に換えてくれた。


受験老人はカネがなく、とにかく食べ物に換えたかった。
甘いものが好きだったので、毎回勝つたびにアーモンドチョコに換えていた。
そして下宿に帰るとそれだけをバリバリと食べ、水を飲んだ。


そんな日が何日も続いた後、ある日鏡を覗いた。すると・・・・
そこには老人の姿が映っていた。
肌がカサカサになり、皺が寄った顔が。
受験老人はぎゃあと叫んだ。


そして受験老人は悟った。自分がどんなに親不孝をしていたかを。
親はこんな自分のためになけなしの金を送ってくれているのだ。


それから、少しだけ受験老人は変わった。
規則正しい生活をするようになった。そして我慢して大学に行くようにした。
受験老人は大学1年生の1年間、ほとんど全ての授業に出ていなかった。
おかげで成績はひどいものだった。


T大は2年生の後半から専門課程に進むが、その前に、進学振り分け、俗に言う「進フリ」という仕組みがあった。要は成績の上位の順から自分の好きな学科に行けるシステムだ。


成績が最底辺の受験老人は行くところがなかったが、たまたま、いいなと思った学科が簡単に行けるところだったおかげで、これ幸いと滑り込めた。
それは、あらゆる自然科学を網羅的に勉強させてくれるところだった。
・・・・奇跡的だった。落第もせず、まあまあ希望のところに入れたのだ。


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すっかり脱線してしまった。
受験老人が教会に行ったのは、そうして専門課程に進級してしばらくしてのことだった。


進級したからには、心を入れ替え、一生懸命勉強しようとし始めていた矢先だった。


だが、実は受験老人は、学問に、次第に魅力を感じなくなってきていた。


受験老人は、やっと進学できたものの、人生とは何か、思い悩んでいたのだ。
大学に入る前に思い描いていた勉強と、実際に大学でする勉強は大いに違った。
こんな勉強、何のためにしなければならないのか。
もっともっと、人生で大切なものがあるのではないか。そう思うようになっていた。
人生の目的や意味はいったい何のためにあるのか、それを知ることが大切だと。


だから統一教会でSから、
「人間がなぜ生きているか、人生が何のためにあるか分かるよ。」
そう言われて、受験老人は食指が動いたのだ。
怖さを感じつつも、Sの言葉に引き込まれていくものを感じた。
Sは自信ありげに、しかし誠実かつ熱く、人生の目的を知る必要性を語った。
いつの間にか、一度くらい話を聞いてもいいだろうという気持ちになった。


受験老人が承知したとみると、Sは、おもむろに聖書の話を始めた。
それは、先生が生徒に話すような口調だった。
だが、抑揚があり、普通の教師よりはるかに分かりやすく、説得力があった。


それは、イエス・キリストの話ではなかった。愛にあふれた話ではなかった。
それは・・・・天地創造の話だった。驚くべき話だった。


受験老人は、その話に思わず引き込まれていく自分を感じた。


(次回に続く。)