受験老人日記~高齢で医学部と司法試験に大挑戦~

還暦を迎えた男が、医学部と司法試験を同時に合格することを目指すという無謀な冒険に乗り出した

虻蜂取らず

「虻蜂取らず」とはどういう意味だったか。
確か「二兎を追う者は一兎も得ず」と同じ意味だったろうか。
でも、ウサギの場合は食べられるが、虻も蜂も、捕まえたところで何の意味があるか?
蜂をいっぱい取れば蜜を集められるが、一匹くらいじゃ大したことはない。
虻に至っては害でしかない。(と思うのは人間のエゴか。)


今、受験老人は三兎を追っている。
三兎とは、司法試験の予備試験受験、医学部入試、そして医学部学士入学である。
受験老人は、まだ自分の人生は長いと思っている。あと25年は働くつもりだ。
であれば、まだまだ自分を試してみたい。
いろいろな勉強をし、その成果を実践していくことにより、自分の中に新たな世界が広がることを期待している。


だが、年齢や体力を考えると、医学部入試と学士入学は最後のチャンスだと思っている。
今回こそ万全の準備で臨みたい。
8月に予備試験を受けた後は、そちらはすぱっとやめ、残りの2つに集中する予定だった。
それで十分、勝算はあった。


し・・・しかし・・・・
受験老人は、大変なミスを犯していた。
12月にあると思い込んでいた学士入学試験が、何と9月にあることが分かった。


何気なく大学のホームページを見ていて、分かったのだ。
昨年は年2回、学士入学の学生を受け入れたその大学は、今年はやり方を変えた。
1回のみの受け入れにすることにより、大学は試験時期を変更したのだ。


・・・・間抜けな話である。何たる大チョンボ。
もう試験まで2か月もない。どうするのだ。
8月の予備試験が終わってから始めると、1か月もない。
それで大学の生物、化学、物理、統計、そして英語の勉強をしなければならない。


今度こそ、完璧を期せると思っていたのに・・・・
またまたこれである。
人生、遠回り・・・・受験老人にはその言葉がいつも付きまとう。


しかし、これも自己責任である。
試験の時期を確認することなぞ、当然しておかねばならないことだ。


そして、考えた。ポジティブ思考である。
去年、学士入学試験のため勉強したことで基礎知識は十分身についている。
だから、勉強期間は1か月で十分。予備試験が終わってからでも間に合う。
それで受からなかいようであれば、入学しても授業に付いていけない。
落ちたら、受かるだけの頭がないか、縁がなかったのだとすっぱり諦めたい。
むしろ、他の受験生に対し、そのくらいのハンデを与えてあげないといけない。
そのくらいのハンデで、しかも年齢によるハンデ(大学がそれをつけるか不明だが)も克服して受かったら、自信を持って入学してもいいはずだ。


今日は、その覚悟ができたせいか、ずいぶん勉強ははかどった。
いつもの予備試験7科目に加え、セミナー生物を始めた。
セミナー生物は基礎問を1日で50問ほど解いた。この調子でやれば十分間に合う。
ただ大学生物をどうやって補強するか・・・・とにかくやるしかない。


なお、「虻蜂取らず」とは、調べると、厄介な虻や蜂を捕まえようとして、両方とも取り逃がすとのこと。


それで思い出した。(ここからトーンが変わる。)
昨夜、受験老人の勉強部屋にあの虫が出た。
久しぶりに見た。受験老人はぎゃあと叫んだ。
おそらく窓を開けた隙に外から部屋に入り込んだのだろう。それ以外に考えられぬ。


しかし、小さな勉強部屋にこの虫と同居するのは居心地が悪い。
そこで、受験老人はこの虫の捕獲作戦を始めた。
殺すのはかわいそうなので、生け捕りにして外に放すのである。
(周りにとっては迷惑な話か?)


ところが、何度も取り損なった。
ティッシュで優しくそうっと捕まえようとすると、そこから逃げ出す。
そのたびに虫は逃げ回り、収拾がつかない。
すると、傍で見ていた妻が、たまりかねて、すばやい動きでその虫をひねりつぶした。


ああ・・・・南無阿弥陀仏。
すると妻は、受験老人に対し、こんな時にいつも使ってきた、あの言葉を発した。


・・・・・


「偽善者」


・・・・・


カフカではないが、自分自身が毒虫になったような気がした。
まっ虫にも魂があるように、受験老人も負けじ魂のあるところを見せたい。
(なんのこっちゃ??)