散歩勉強法
受験老人の家は何の変哲もない団地にあるが、一つだけ誇れるものがある。
それは遊歩道だ。
辺り一帯は20年ほど前に野山を切り拓いて開発されたニュータウンだが、計画的に造られたため、街全体に遊歩道が張り巡らされている。
全部で20キロメートル以上あるだろうか。とにかく長い。
車道には車がぴゅんびゅん行き交っているのに、一歩中に入るとそこは静寂の別世界だ。
以前、仕事の関係で研究者の都市、つくば市に住んだことがあった。その時も遊歩道が張り巡らされているのを大いに楽しんだ。
なので、つくばから再び都会勤めになったとき、たとえ職場から遠くても、そんな散歩ができるところに家を構えようと切望した。
家は狭く、庭もない。買った15年ほど前に比べ、ボロボロになった。
だが、この遊歩道を自分の庭のように利用できることで、他のマイナスが帳消しになる。
テレワークでの最大の楽しみ、それはまさにこの遊歩道の散歩だ。
テレワークを早い出勤、早い退勤で終わらせた後、リュックの中に予備試験3科目分の書物と新聞を入れ、半袖、トレタイツ、運動靴で出かける。万歩計も忘れずに。
その日の気分によりコースを変える。
だが、だいたい2時間半ほどの散歩であることに変わりない。
二ノ宮金治郎式勉強法を開始する。
遊歩道はまあまあ広く、平日だとほとんど人とすれ違わないので安全だ。
池あり、川あり、小高い山あり。随所に公園がある。
街とも一部接続している。教会がある。(実は結婚式場。)
スーパーやドラッグストアもある。受験老人は食料品の値引きが始まったころに飛び込み、半額のものをゲットする。
我が家ではこれを「半額ハンター」と勝手に命名している。
同種の人たちがいる。奪い合いになりそうだが、まあ微妙に譲り合いもある。
当然ながらその間、受験老人は二ノ宮金治郎式勉強法を続ける。
三科目目の頃になると、辺りが次第に暗くなる。
その時にはやおらリュックから懐中電灯を取り出し、その灯りを頼りに本を読む。
そして、我が家に到着。
万歩計を見ると、だいたい1万3,000~1万5,000歩。ほどよい運動量である。
そして、シャワーを浴び、妻の手料理に半額ハンターの食品を追加して夕食。
録画していたクイズ番組や、ドラマ、バラエティを見ながら、ゆっくり食事。
あとは部屋で勉強。2科目ほどすると眠くなる。でも散歩のおかげでぐっすり眠れる。
人生とは何か考えると、散歩のようなものかもしれない。
人生の岐路で選択に迷うこともあるかもしれないが、どれかの路を選ばざるを得ない。
選んだ路によって、いろいろ違った景色が目の前に広がる。
それはもともと予定されたものかもしれないが、注意しているといろいろな発見がある。
その中で、いろいろな出会いがある。
同伴者も生まれるかもしれない。
そして、最後は元の所に還っていく・・・・。
だが受験老人は、素直な散歩コースを外れ、棘の路に自ら迷い込もうとしているのかも。
悲惨な結末になるかもしれぬが、それも自分の選んだ路。
さあ、次はどの路を選ぼうかな???
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