受験老人日記~高齢で医学部と司法試験に大挑戦~

還暦を迎えた男が、医学部と司法試験を同時に合格することを目指すという無謀な冒険に乗り出した

介護ができなくなったっ!

受験老人は昨年の正月以来、両親の介護に奔走することになった。


まず軽い認知症のあった母が、転倒・骨折して寝たきりになった。
それを90歳を過ぎた父が介護を始めた。典型的な老々介護だった。


だが、普通の寝たきりでない。認知症である。
母は昼夜構わず、大きな声を出しては父を起こし、その睡眠を妨げた。
父はかいがいしく母の食事や排せつの世話をした。


母は中途半端な寝たきりであり、ベッドからはい出て歩き回るので始末が悪かった。
父は睡眠不足とストレスで健康を害した。


その頃から受験老人は定期的に帰省するようになった。
帰省している間は食事を作り、洗濯し、散らかり放題になっていた部屋の片づけをした。


ディサービスを利用させていたものの、それだけでは足りなかった。
このため母を介護老人保健施設(老健)に入院させた。
そこには長くおられず、数か月後には老人ホームに転院させた。
入院させたことで、とりあえず安堵した。


しかし一方、今度は父のことが心配になった。
母と2人で仲良く生きていたのに、いきなり1人での生活になったのである。
心配になり、いきおい帰省の回数は増えた。
やはり家を離れ、遠くに住んでいる姉と交代で、隔週で帰省した。
帰省すると土日のほか、余分に1、2日はいた。
そしてその間、毎日母の見舞に行くことができた。


このためたまっていた有給休暇があっという間になくなった。
その代わり、3食を作ることで受験老人の料理のレパートリーは広がった。


帰省のたび、父は喜び、また、こちらに帰ってくるときは、父は少し寂しそうにした。
見舞った母も同じだった。また来てくれと私にすがった。
だが、毎週、私か姉が帰るので、父も元気を出した。
今年1月のインフルエンザと肺炎も、父は強靭な体力で何とか乗り越えてくれた。


しかし、ここにきてコロナ騒ぎである。
まず、母の入院していた施設は、見舞いに行っても会えなくなった。
そして4月になってからは、私も姉も、帰省ができなくなった。


いざとなれば、当然帰省はできる。
だが、もし万一、自分がコロナに感染し、それを親にうつしてしまったら、どうするか。
・・・・取り返しがつかない。


しかし・・・・ITは便利だ。
父は、思い立って昨年冬、スマホを購入した。
最初はおそるおそるだったが、そのうちうまく使いこなせるようになった。
まさに90の手習いである。
最近は毎朝、私や姉とラインでのやりとりをしている。
「今日、朝起きて体操した。」
「おいしいみそ汁を作った。」
「畑を耕した。」
「パソコンで囲碁をやった。」
そんな、毎日変わらない連絡が来る。ちょっとした感想をつけて。
でも、それがありがたい。
その都度、こちらも返信すると、すぐに既読になる。


お父さんお母さん、ゴールデンウィークは帰れないけど、どうか元気でいておくれ。
きっとコロナは収束するだろうから。
母はまだ、私のことを覚えてくれているだろうか・・・・。