受験老人日記~高齢で医学部と司法試験に大挑戦~

還暦を迎えた男が、医学部と司法試験を同時に合格することを目指すという無謀な冒険に乗り出した

宗教、死後の世界、超能力(その7)~統一教会の合宿研修

さて、Sから合宿研修への参加を強く勧められた受験老人である。


受験老人は、その頃、まだ自我が確立していなかった。
そして、人恋しかった。友達がいなかった。
(いや、唯一、Uという友達ができていた。このUは受験老人の当時の、そしてその後の人生に大きくかかわってくる最も大切な友だったが、また後で話す。)
だから、誘われると、いつもほいほい付いて行った。


しかし、統一教会の研修は、わけが違った。
「本当に、洗脳されてしまうかもしれない・・・・」
受験老人には大きな焦りが生じた。
そして、親の顔も浮かんだ。毎月、稼ぎの中からせっせと仕送りしてくれている両親。
だが、これまでキリスト教のよい話ばかりを聞かせてもらったSに説得されると、何とも断りづらかった。
Sに言われるがまま、受験老人はついに合宿への参加を承諾した。


・・・・・・


さて、合宿の講義は朝から始まるため、前日のうちに研修所に行く必要があった。
どうやって行くのかと思っていたが、他の参加者と一緒に車で行くと言われた。
用意された車を見ると、ぼろぼろで、今にもエンストを起こしそうだった。
ところがその車で、夕闇迫る首都高をすごいスピードで走ったのである。
車はぼっぼっぼっと、悲鳴のような音を上げた。車検に通っているのだろうか。
・・・・合宿参加前に、早くも死にそうな気持ちになった。


さて、研修所に着いた。もう辺りはとっぷり暮れていた。
どうやら同じ研修に参加する人たちは十数人いるようだ。
見ると、みな大人しそうで、純真で、真面目そうな若者たちだった。
ああ、こんな人たちは素直だから、洗脳されてしまうのだろうな。
受験老人は勝手にそう思った。自分自身がそうであるとも知らずに。


そして、翌朝から、研修が始まった。
数人ずつ小部屋に集められ、講師がプログラムに沿って説明するというスタイルだった。
講師も若かった。Sもそうだったが、きちんと背広を着て、張りのある声をしていた。
好青年というのがぴったりだった。おそらく他の部屋の講師も同じだろう。


受験老人は、自分や自分の家族が入信していたT教のことを思った。
江戸時代末に始まったその宗教は、その頃信者を増やしていた。
小さいころから毎月のようにT教の教会に行った。
T教は受験老人に子どものころから衣服のようにまとわりついていた。
大学に入ると、本格的な信者になるため、本部のあるT市に行き、同じ話を9回聴くことが必要になった。
受験老人は帰省のたびに、T市を訪れ、話を聞いた。
だが話の途中でいつも眠くなった。
講師が誰も彼も老人で(その頃はそう思ったが、もしかすると今の私より年下だったかも)、たらたらと話をするため、聞き取りにくかったのだ。
だから、話を9回聴いて正式な信者になっても、その話を全く覚えていなかった。
受験老人はダメな信者だった。


それに比べ、どうだろう。
統一教会の講師は若々しく、その話は、控えめだが、自信が感じられた。
受験老人は、思わず、耳を傾けようという気になった。


(次回に続く。)