受験老人日記~高齢で医学部と司法試験に大挑戦~

還暦を迎えた男が、医学部と司法試験を同時に合格することを目指すという無謀な冒険に乗り出した

宗教、死後の世界、超能力(その6) ヨブ記    

Sは話し続けた。
「天使長はあさはかでした。
少し考えたら分かるでしょう。神は全能の存在です。
たとえ人間をいかに愛しても、天使に対する神の愛が減少するはずはないのです。
愛というものは限りはありません。いくらでも分け与えられるものだったのです。
それを、ルーシェル天使長は見誤っていたのです。
自分への神の愛がその分減少すると思い違えたのです。
そうして、天使長は地の底に落ちたのです。」


その後、Sはいろいろな話をした。
旧約聖書の話が中心だったが、いくつかのトピックを話してくれた。


受験老人はその時に聞いた話はほとんど忘れてしまった。
だが、ヨブ記だけは今でも覚えている。以下のような話だった。


ヨブは大富豪で、信心深い人であり、子宝にも恵まれていた。
神に祈りをささげ、神に感謝しながら幸福に暮らしていた。
神もヨブを愛していた。


その時、今やサタンとなった、かつてのルーシェル天使長が神に戦いを挑んだ。
「ヨブはこんなに金持ちで、子供にも恵まれ、幸せだから主を信じれるのであり、
この幸せが奪われたら、きっと主のことを罵るようになりますよ。」


そこで神は、サタンに、ヨブの命を奪うこと以外のことなら何をしてもいいと言った。
正しい人であるヨブなら、苦難にあっても、決してサタンの試みに屈しないと。


そこで、まずサタンは、ヨブから、羊や牛を奪った。
ヨブは財産をすべて失った。しかし、ヨブは神への信仰を捨てなかった。


次に、サタンは、ヨブの愛する息子や娘たちを死なせた。
だが、それでもヨブは信仰を捨てなかった。
神に何かの意図があるのだろうと考えた。


さらにサタンは、ヨブの身体全体に皮膚の病気を生じさせた。
壮絶な痛みと苦しみにヨブはのたうち回る。
神はなぜ自分だけにこんな苦しみを与えるのかと、一瞬神を疑う。


続けざまに襲い掛かるヨブの不幸を見て、妻ですら、信仰を辞めるよう諭した。
ヨブに会いに来た知人たちは、ヨブに悪い所があったからだとヨブを非難した。


だが、そうしたことを通じても、結局、ヨブは神への信仰を変えなかった。
そんなヨブの前に、とうとう神が姿を現した。
神はヨブに、今回の苦難の目的は語らなかったが、ヨブを見捨てていないことを示した。
これにより、ヨブは報われた。


そして、その後、ヨブは皮膚病からも回復した。
以前より増して多くの羊や牛を所有するようになり、多くの富を得た。
再び、以前と同じだけの息子や娘を得た。
そして長く生きた。


・・・・この話は私の心に残った。
つまり、神に対する絶対的な信仰である。
神は必ず、何らかの目的をもって人々にいろいろな苦難を与えているということ。
それを信じ、努力していけば、神は決して見捨てない、ということ。
ずっと土着の宗教の信仰を続けてきた私は、自分の信じてきた宗教と、少し共通点を見出すことができた。


それと同時に、これまで「愛の」神だと思っていたキリスト教の神が、
旧約聖書では、なぜか恐い神であり、ちょっと人間臭いところもあるような気がした。


・・・・Sの、長い長い話は終わった。話し始めた時からもう4、5時間は過ぎていた。
教団の女の人が夕ご飯を持ってきてくれた。


この話を聞く前なら、何か薬物でも混入されているのではないかと疑っただろう。
だが、Sの話を聞いた後、腹も減っていたので、食べた。おいしかった。


Sは私に感想を求めた。


私としては、面白い話や、新しい話をいろいろ聞かせてもらったことをまずは感謝した。
そして、ちょっと言いにくいが、こう言った。
「原理研と言うと、洗脳される等、怖い宗教だと聞いていましたが、今のお話を聞いたかぎり、そんなことはありませんね。」


するとSは、こう言った。
「洗脳って、そんなに簡単にされるものだと思いますか。
人はそれぞれ、生きてきてさまざまな経験をしている。
その経験からその人の価値観が出来上がっている。
だから、その価値観から、どのように判断するか、それが全てじゃないですか。
私たちは人を無理やり洗脳しようと思ったこともないし、むしろ、できないですよ。」


私は、その言葉は、ある程度は事実だろうと思った。


だがその後、Sは次のように言った。
「ちょうど来週、本部で合宿しながら、話を聞く機会があります。
今日お話したのはほんの触りの部分ですが、それに参加すれば、もっと本当の、深い部分を聞くことができますよ。いかがですか。参加されないですか。」


Sの言葉は、決して強制ではなかったが、有無を言わせぬ響きがあった。


(次回に続く。)