受験老人日記~高齢で医学部と司法試験に大挑戦~

還暦を迎えた男が、医学部と司法試験を同時に合格することを目指すという無謀な冒険に乗り出した

受験老人の卒業と入学

春だ。普通なら桜が咲き、また散っていくのとともに、卒業と入学を迎える。
だが、今年はあまりぴりりとしない。
花見は禁止、さらに外出も自粛になり、桜をじっくり見る機会がないからだ。


ただ、受験老人の家の周りには遊歩道が張り巡らされ、そのあちこちに桜の花が咲いている。それを見れば季節の移り変わりは認識できる。


さて、受験老人は卒業を迎えた。長かった勤めの終わりである。
退職にあたり、勤め先で退職の式典があった。
このいろいろな行事の自粛のさなか、本当にやるのか不思議だった。
だが、やはり勤め先はその点、配慮していた。
マスクは必ず着用、そして開催場所は大講堂に何十人かが1メートルくらい離れて座った。前代未聞である。


その日の終わりまで、受験老人は執務室の片づけに没頭した。
これまで何日もかけて片づけてきたのだが、書庫3つ分くらいの資料を整理しなければならず、なかなか終わらない。夜遅くまでかかった。
結局資料のほとんどは捨てた。いかに整理ができていなかったかである。掃除の人に申し訳ない。


そうして、翌朝から出勤。
しかし、勤め先が変わったわけではない。個室っぽい部屋から大部屋への移動である。
受験老人は同じ務め場所へ再就職(再任用)されたのである。


机や置き場も小さくなった。若い人たちと机を並べ、新入生になった気分である。
受験老人の素性を知らない、新たな人たちには、なんだこのじいさん、といぶかしがられるが、知っている人たちにはちょっと恐縮される。


まあ、今までより居心地は確実に悪いのだが仕方ない。この環境に、何とかなじんでいかねばならない。コロナで大不況の中、この年で雇ってもらえるだけでもありがたい。


受験老人にとって、退職が卒業ならば、就職は入学のようなものだ。
これで慣れないとしたら、この年で医学部に入学したり、新人司法研修生になったとしたら到底耐えられない。
だからこそ、新たな仕事には全力で取り組み、慣れるようにしたいのだ。