受験老人日記~高齢で医学部と司法試験に大挑戦~

還暦を迎えた男が、医学部と司法試験を同時に合格することを目指すという無謀な冒険に乗り出した

生物のセンター試験もやってみたところ・・・・

受験老人はセンター試験では理科のうち物理と化学を選択し、それぞれ85点と75点だった。


特に化学は模擬試験で良い成績が出ていただけに、ちょっと落胆した。
 


しかし、受験老人、何を隠そう、専門は生命科学なのである。


理Ⅲを受験しようとしていた時は化学と生物を選択していた。


東大でも大学院は生命科学に関係した学科に進学し、がん遺伝子の研究もした。


その後、就職しても生命科学との関りはずっと続けている。



それにもかかわらず、生物を選択しなかったのは、理由がある。


「生物基礎」はともかく、「生物」は習得すべきことが膨大で、さまざまな実験を問題にすることができるため、勉強がしにくく、満点が取りにくいという思いがあったからだ。


なので、私としては生物にどんな問題が出ているか、興味があった。そこで、ネットにから問題を取り出し、やってみることにした(暇人)。
 


結果は・・・・75点だった。全く化学と同じ点数だった。


大問を1問、まるごと間違えてしまった。その問いでは18点満点中2点しか取れなかった。


古細菌と細菌と真核生物を系統樹に沿って分類する、最初の問いにつまづき、あとは全部勘違いした答が並んだ。
 


でも、思った。ああ、これなら生物を選択すべきだったと。


今回、受験のために化学は毎日一定時間を割いて勉強していた。


その化学と、全く勉強していない生物が同じ点とは・・・・。


ちょっと勉強すれば、ずっとよい点を取れたのではないか・・・・悔しさが尽きない。
 


ただ、今回、生物のセンター試験をやってみて、高校生物に対する印象が変わった。
 


私のこれまでの経験からの、高校生物に対する印象は次の通り。(長くかつ難しくなるが申し訳ない。不要な方は飛ばして読んでもらいたい。)


・学ぶことが飛躍的に増大した。ほとんど内容の変わらない物理、高分子関係のみ少し増えただけの化学に比べ、生物は爆発的に量が増えた。


・量が増えたところのほとんどは最新の知識。高校生物学の教科書には選択的スプライシング、逆転写、miRNA、RNA干渉(RNAi)、siRNA、遺伝子ノックダウン、PCR法、DNAシーケンサーの仕組み、ポストゲノム時代、プロテオーム解析、オーダーメイド医療、遺伝子治療といった、研究者でも詳しくないような専門用語が並ぶ。


・ところが専門家の中には教科書にはもっともっと最新の知識を取り入れなければだめだという考えの人も多い。(そんな人にかぎって実際に生物の教科書をろくに調べようとしていない場合もある。)


・分子生物学等の最新の知識を重視するあまり、昔の生物学を不要だとする専門家も。両者は車の両輪であるはずなのに。一方旧来の生物の専門家も負けていない。結果的には両者の意見を取り入れることになり、ますます教科書の厚みが増す。


・学ぶ量が増えた結果、生徒は知識を吸収するのにアップアップ。


・単に学ぶ量が増えただけではない。生物の試験は物理や化学の試験と比べワンパターン化していない。実験の種類が無数にあり、それから自在にいろいろな試験問題を作ることができる。このため生徒は対応できなくなる。


・そんなこともあって、生物の問題は化学・物理の問題と違ってある程度点を取れる一方、満点近くの点を得ることは難しい。このため旧帝大や医学部志望の生徒は差別化を図る目的で、生物で受験せず物理・化学に流れる。


・結果、生物を選択する生徒はますます少なくなる。何のための生物の内容の充実か、本末転倒となる。書店にも生物の参考書はほとんど置かれていない。(私の印象。)


・そうした生物未履修者が大学に入り、特に医学部等でまったく生物未履修の状態で生物の授業を受けると、膨大な勉強量になかなか付いていけない。



以上から、センター試験も、多くの分野からいろいろな問題が出されると、対応するのは大変だろうなあと思っていたのだ。



だが、今回のセンター試験を私は解いていて、実際にはすごく楽しかった。


なぜなら、ほとんどの問題が、実験を踏まえてその場で自分の頭で考えさせる問題だったからだ。


解くのに必要な専門的知識はほとんど不要であり、基礎的な知識さえ身につけておけば、普通に思考力を持った者なら正解を導き出せるようなものだったのだ。
 


思い出した。私は何年か前、高校生物の知識量の増大にあきれ返り、生物の指導要領を担当している行政の部署を調べてアポを取り、そこの担当者とかけあったことを。(受験老人は実は好奇心が強いのである。)


すると担当者は、こんなに学ぶことが多すぎてどうするんだという私の主張に大いに理解を示してくれた。


というより、そのことは関係者の間でも一つの課題として挙がっていると。そして、センター試験では細々した知識を覚えなくても対応できるよう工夫しようという声が出ている、と。


まさにその答えが今回のような試験か。確かに予備知識があまりなくても、しっかり考えれば解ける問題ばかりだった。


そう思うと私はちょっと嬉しくなった。担当のところでもよく考えて対応しているんだなあと。


ただ、センター試験はせっかく改まっても、個々の大学の行う二次試験は改善が難しい。


そこで相変わらず重箱の隅をつつくような問題が出されたら、結局、生徒は物理・化学に逃げ、焼け石に水の結果となるだろう。


闇は深いかも。


ただ、二次試験が迫った中で、のんきに受験と関係ない問題を解いている私自身の闇も深い。


実は、そんな呑気なことをしてはいられない、緊急事態も襲ってきていたのである。