受験老人日記~高齢で医学部と司法試験に大挑戦~

還暦を迎えた男が、医学部と司法試験を同時に合格することを目指すという無謀な冒険に乗り出した

思い出した「ガラスの仮面」の一場面

受験老人は昔から漫画「ガラスの仮面」を読んでいたが、この漫画、なかなか完結しない。読み始めた頃から既に何十年も経っている。


初めて作者の美内すずえを知ったのは姉が買っていた別冊マーガレット(別マ)で。それによく美内すずえ単発物の作品が掲載されていた。


冒険やらミステリーやら学園ものやら、同誌に掲載されていた他のマンガに比べてもワクワク感は半端ではなかった。(くらもちふさこ、槇村さとる、和田慎二なども好きだったが。)


「燃える虹」、「魔女メディア」、「王女アレキサンドラ」・・・・思い出しただけで熱くなる。
 


これらの作品にも、そしてガラスの仮面にも共通して流れているテーマ・・・・それは、ロマンである。


そのロマンは、私も小さい頃からずっと持ち続け、それゆえ、私が周囲からも、どこか現実離れしているとみられている所以である。



私はガラスの仮面に魅せられ、何十回も繰り返し読んだが、時々、自分も主人公と同じような気持ちになったことがあった。


周囲から馬鹿にされ、貧乏で何も取り柄のなさそうな主人公(北島マヤ)が、こと演劇に関しては、驚くような才能のきらめきを見せ、周囲のものを驚愕させる。


受験老人も、とりたてて何の才能はなかったが、テストでよい点を取る才能だけはあった。


ぼうっとした風貌や貧しい身なりから、皆に馬鹿にされていた。だが、中学校での最初のテストですごくいい点を取り、先生にまでカンニングを疑われるという事態になった。


その時のことが、なぜか北島マヤに重なる。もう何十年も前のことだが。



だが、つい最近、受験老人は、あることがきっかけでガラスの仮面の一場面を思い出した。(以下、記憶だけで書いているので名称等間違っていたら申し訳ない。)


それは、次のような場面。


北島マヤは、その天性とも呼べる演技力を認められ、大河ドラマに出たり映画の主役を演じるなど、スター階段を駆け上がっていった。


ところが、それを妬み、いつか成り代わってやろうとする乙部のりえの策略にはまり、失脚してしまった。


母の死、恋人との別れ、そして、最も大好きな演技もできなくなるという、絶望的な状況になった。


マヤは役者をやめる決意をする。マヤを温かく見守る紫のバラの人、速水真澄は、マヤの失脚の原因を自ら作ってしまった罪悪感に苛まれながらも、マヤを最後の舞台へと送り出す。
 


その舞台は「夜叉姫物語」。主役の夜叉姫をマヤの最大のライバル、姫川亜弓が演じる中で、マヤはつまらない一少女の役を演じる(確か「トキ」という名前だったと思う)。


貧乏なトキが夜叉姫から貰った饅頭(おはぎだったか?)をおいしい、おいしいと言って食べる場面である。


ところが、その饅頭は、マヤを快く思わない人たちの手によって泥饅頭に変えられてしまっていた。食べることができないのだ。絶体絶命である。
 


ところが、これを食べないと舞台が続かないと思ったマヤは、手が勝手に動き、その泥饅頭を食べてしまうのである。


「おいしい。おいしい。おらあ、こんなにおいしいもの、食ったことがねえ。」そう言いながら食べ続けてしまう。



マヤを陥れようとした者たちは、マヤの無茶ぶりにあきれるが、マヤのことを知る姫川亜弓は言う。


「あなたたちは、マヤの持つ、役者としての闘争本能を呼び覚ましてしまったのよ。」(たぶん文言は正確ではない!)



一方マヤは、舞台修了後、速水さんに手助けされながら食べた泥饅頭を吐き出しながらも、身体がどうしようもなく熱くなる。身体がほてるのである。


舞台でトキになりきったことで、役者としての本能が戻ってきたのだ。そして、役者をやめるという決意を翻した。もう一度、舞台で演じたいと思ったのである。


・・・・いい場面だった。私はガラスの仮面の中でこの場面が一番好きだ。だが、どうしてこの場面を思い出したか。
 


先日、医学部を受験した。


まあ、それなりに準備をしていたのだが、全くできなかった。明らかに受験をなめ切っていたのである。


しかし、全ての試験が終わった後、私の身体は熱かった。


問題に対し、歯が立たないでも一生懸命に立ち向かっていったことで、頭や体が活性化した。つまり、試験問題を解くことへの情熱がよみがえってきたのだ。


 
試験後は、解けなかったという悔しい思いより、ああ、もう自分は二度と試験を受けることができないのかという残念で悲しい気持ちが強かった。


つまり、自分の中で、やりきった気持ちになれず、どことなく中途半端な部分が残ってしまったのだ。


 
とにかく、このままこの気持ちを引きずったまま生きていきたくない。思い残すことがないよう、全力でぶち当たりたい。


そう思うと、受験はこれ一回限りと考えていたのだが、続けてみたいと思ったのだ。


往生際が悪いが、それがここ何日か考えた結論である。


私にはマヤのような才能はないが、ロマンを感じ、挑戦を続けていきたい。


 
(なお、恩田陸の「チョコレートコスモス」は、マヤを彷彿させる女の子が主人公の傑作だった。ガラスの仮面の読者の皆様、ぜひご一読を。)