受験老人日記~高齢で医学部と司法試験に大挑戦~

還暦を迎えた男が、医学部と司法試験を同時に合格することを目指すという無謀な冒険に乗り出した

コロナの流行で思い出した

コロナ肺炎の流行で思い出したことがあった。それは受験老人が昨年、ある大学で行った講義だった。


今から600~700年ほど前、14世紀に世界で「黒死病」という病気が大流行した。黒死病は数度流行したが、その時が一番ひどかった。
全世界でその病気で1億人が死んだ。ヨーロッパの全人口の30-60%が死んだ。感染した者はほぼ100%、肺炎等で息絶えた。
発症すると細菌の影響で体全体が真っ黒になって死んだ。


人々は恐怖のどん底に追いやられた。厳重に隔離して家に閉じこもっていても、どこからか細菌が侵入し、1人が発症すると全員が死んだ。
その様子はいくつかの記録に残り、絵や小説にも残っているが、特に絵は悲惨で、死神が鎌で次々に人々を刈り取っていく様子が描かれているものもある。
まさにそんな感じだったのだろう。


受験老人は高校の時、世界史も選択したが、あまりこの黒死病について詳しく学んだ記憶はなかった。でも、死者の数からすると、戦争をいくつも合わせた数よりずっと多くの人々が亡くなったのではないか。


なお、この黒死病、最後に大流行したのは20世紀、アジアでだった。だが、世界的な大流行にはならなかった。
なぜか。ある日本の学者が、果敢にも当時流行していた香港に乗り込んで病原体を発見し、それによって治療法開発の先鞭をつけたからである。


彼の名は北里柴三郎。「黒死病」の原因がペスト菌によることを初めて解明したのである。
だからこそ、北里の功績は大きい。ノーベル賞をいくつあげても足りない。
社会が病気の流行によって崩壊し、しかし科学の力でそれを克服したひとつの例がこれだ、と私は教えた。


ペストは細菌なので、その細菌に害を及ぼす抗生物質で抑えることができる。
新しい細菌が生じても、既存の抗生物質でほとんどは撃退できる。
ただ抗生物質にも種類に限界があり、どの抗生物質にも効かない細菌がいつ現れても不思議ではない。


それより厄介なのは今回のコロナのような新型のウィルス。生物の細胞に入り込んでその仕組みを使って自ら増殖し、どんどん広がっていくものだ。自ら増える細菌とは違う。
そもそも抗生物質は効かない。
まず、熱を下げる、咳を抑える等の対症療法を行い、そのうち体の中に抗体ができてウィルスをやっつけてくれるのをじっと待つしかない。
ウィルスの予防にはワクチンがきく。だがそれはあくまで予防のため。かかってから打っても効き目はない。
新型のものがはやると、ワクチンを作るのに1年近くかかり、間に合わない。
またインフルエンザや、今回のコロナのような、遺伝子にいろいろな組み合わせがあるものや、RNA型のものは、どんどん変異するのでワクチンを作ってもダメな場合も多い。


唯一、ありがたいのは感染力が強いウィルスは病原性は小さく、逆に病原性が強いウィルスは感染力が弱いためあまり広まらないということだ。
今回のコロナは感染力も病原性も中程度だからこそ、大騒ぎになっているのだろう。


鳥インフルエンザのように動物での感染力が強く、病原性の強いものが、万一人に感染できるようになったら、本当に大変な事態になる。コロナどころの騒ぎではない。


世界は、これら、絶えざる危険に直面しているということだ。
けれども、受験老人としては、科学の力を信じたい。これまでどんなものに対しても、人類は科学の力で戦い、勝利を得てきた。人類の知恵を信じたい。


そのために、受験老人も何か、貢献したい。だから医学部を目指したい。
人のために役立ち、そのために死んでいくなら本望だ。ただし独りよがりは禁物だけど。


(その一方で、自分の解答に新たなミスが見つかり、ますます合格可能性が小さくなり、激しく落ち込む。ああ、小さい人間だ・・・・。)