受験老人日記~高齢で医学部と司法試験に大挑戦~

還暦を迎えた男が、医学部と司法試験を同時に合格することを目指すという無謀な冒険に乗り出した

T医大のこと

先日、連休中の1日を利用して、T医大であったあるワークショップに出席した。


世界生命倫理デ―の記念行事だとのことで、講演と抱き合わせで、参加型の研修が行われることを知った。


参加は無料というので、貧乏で好奇心の強い受験老人は、思わず申し込んだのだ。


研修は、医療機関が患者の治療を行う際、はたしてその治療を行うべきか否か、選択を間違わないためにはどうすべきかがテーマだった。用意された実例を用いて、この場合にどうするか、あの場合にどうするか、とグループに分かれて侃々諤々議論するというものだった。


確かに、実際の医療現場ではお医者さんは判断に迷う場合もあると思う。がん患者で治療しても危険が大きく、かえって寿命を縮めてしまうようなケース、植物状態になって無駄に延命治療を続けても仕方ないのではないかと思われるようなケース等。大原則としては、本人の意思が第一だが、それが確認できなかったりあいまいな場合は判断が難しい。


私はこれまで知らなかったのだが、こんな時、医療関係者も患者もともに自信を持って判断が行えるようにするために、ジョンセンという学者が4分割法という手法を考案している。つまり、以下の4項目に分類して、それぞれの状況をまず把握するところから始めようというものだ。


(以下、ちょっと細かくて、難しくて申し訳ない。)


・医学的対応(患者の症状はどのように診断されるか。予後はどうなるか。治療目標は。治療の効果とリスクは。治療をしても無駄になるかどうか。)


・患者の意向(患者の判断能力は。ちゃんと患者からインフォームドコンセントが得られているか。治療を拒否していないか。事前に意思表示(リビングウィルという)がなされていないか。患者の意思が分からない時に代わりに判断できる人がいるか。)


・生活や人生の質(QOLという)(QOLは実際にどうか。QOLをだれがどのように判断するのか(実際に何が患者にとって最善なのか等)、QOLに影響を及ぼすような事情があるか。)


・周囲の状況(家族や利害関係者はどう考えるか。守秘義務はあるか。治療費は払えるか。医療施設の方針してはどうか。法律滋養問題ないか。宗教や慣習上問題ないか。医療事故があった場合どう対応するか。情報開示は。)


う~ん。いちいち、こんなにいろいろな情報を集めた上で、判断を行わなければならないのか。私はちょっと驚いた。


医師だけが対応するのではない。看護師や、技師や、カウンセラーや、事務方等が情報を持ち寄り、そうしたデータを踏まえて、これら関係者が相談して結論を下すのである。


もちろん、判断に迷う場合が中心になるだろうが。しかし、患者にとっては、こうして全てを考慮してくれて決めてくれるのであれば、満足度は高く、また、医療関係者にとっても、判断を行う上で考慮すべきことは全部したということで、一安心かもしれない。


参加した人は20人余りで、それがグループになって議論を行ったのだが、参加者には実にさまざまな人たちがいた。学者、医師、看護師、弁護士、製薬企業の人。原発反対者や僧侶までいた。こうして異業種が集まると、議論が活発になる。


しかし、私が感心したのは、皆、それぞれの立場で、実に真剣に物事を考えているということだ。特に医師や看護師は、実際の現場でも判断を迫られることがあるのだろう。彼らの話には説得力があった。


その中で、知識や情熱のない受験老人としては、ただただ皆の議論をぼうっと眺めていただけで、あまり気の利いた発言もできなかった。自分自身のふがいなさ、もっとこのような場を経験することの必要性を痛感した。


ただ、1つ、感じたことがあった。こうして各分野の人たち、特に専門家も集まって、こうした手法を用いても、それでもまだ判断の分かれる場合があったことだ。これはなぜだろう。仕方ないのか。


やはり、私としては、国や学会が、もう少し判断のしやすいようなマニュアルをきちんと整えたり(厚労省の終末期医療のガイドラインは何度か改定されてきているようだが)、国でこうしたデータを各機関から集める仕組みを作り、各機関での判断の参考にするようにしたりすればよいと思う。


私は調子に乗って、「人が判断するから迷うのであり、将来的にはAIがそれらを含めて判断すれば皆が納得するのでは。」と口を滑らせ、皆から一斉に反発を食らってしまった。だがどうだろうか。将来は分からないと思うのだが。


それから、不祥事で評判を落としたT医大だが、こうした研修はもう10回くらいやっているとのこと。私にとってはとてもためになる研修だった。教員の1人1人にはこうして頑張っている人たちも多いと思う。大学全体として早く正常な軌道に戻り、評判を取り戻してもらうことを願う。