受験老人日記~高齢で医学部と司法試験に大挑戦~

58歳の何のとりえもない男が、医学部と司法試験を同時に、しかも短期間で合格することを目指すという無謀な冒険に乗り出した

全ての生物学・医学研究は不老不死に通ず


「週末は実験を手伝ってもらいたい。」


そう、先輩にすがるように言われた時、私の気持ちは大きく揺れ動いた。


秘密裏に進めてきた東大理Ⅲ受験をどうするか。


せっかくここまで勉強してきたのだ。自分を試してみたい。


と、先輩の要請を断る気持ちの方が強かった。



しかし、先輩のすがるような態度を見ると、私としてはいやとは言い出せなかった。


彼は学位がとれるかどうかぎりぎりのところで、そのために完璧にデータを整えておかねばならないということは、一緒に実験している私には嫌というほど分かっていた。



こうして、私は理Ⅲ受験を断念した。


あの時、受験していたらどうなっていただろう。


それは今でも時々思い出す。


本当に、あの頃は頭の調子は最高だった。数学ならどんな問題が出されても解ける自信があった。


しかし、私は思う。あの時、たとえ受けていても、落ちていたのではないかと。


実験に力を入れすぎて、最後のあたりは勉強がずいぶんおろそかになっていた。


私は最後に受けた試験で理ⅢのA判定をもらっていたが、その後、おそらく現役の連中は急激に力を伸ばし、私を抜き去っていただろう。


そして、落ちたら、先輩を手伝わなかったことをきっと悔やんでいたにちがいない。


また仮に、通ったとしても、それは私にすがっていた先輩を犠牲にして受かったということになる。


それは一生、私にとってトラウマになっていたのではないか。


いわばこれは、神様が私に与えた運命だとは思えないか。



そうして私は、大学院に行くことを決めた。


私は、その時の指導教官に、率直に自分の悩みを相談した。


「私は不老不死の研究がやりたいです。でも、そのような研究をしているところなど、探してもどこにもありません。私はどうすればいいのでしょうか。」



当時の指導教官は、その年に退職することが決まっているおじいさんの先生だった。(今、私は彼と同じような年齢になっているが、残念ながらとてもそのような重みはない。)


先生は答えた。


「それは逆だ。不老不死の研究はどこもやっていないということではない。ある者は基礎研究を。ある者は病気の研究を。そうしてそれらの研究が病気を治し、寿命を延ばし、あるいは生命の神秘を探求することで老化の根本原理の解明につながっている。つまり、どんな生物学や医学研究をしようとも、それは不老不死につながっているんだ。」


私は目からウロコが落ちたような気がした。すべての研究が不老不死につながる、か。なるほどこれはよい言葉だ。



そして私は大学院に進学した。


だが、そこで待っていたのはある研究所への出向だった。


それがさらに私を不老不死の研究に駆り立てることになった。