よい医者、悪い医者(18)
(前回の続き)
受験老人は憔悴しきった。
最後通牒を突き付けられたに等しかった。「失明宣告」。
受験老人は、清算するため、受付前で暗い気持ちで待っていた。
その時、看護師が、慌てたように、受験老人のところに息せき切ってやってきた。
「院長がお話があるそうですっ。」
看護師は受験老人を院長室にいざなった。
院長は、受験老人の入ってきたことにまるで気づいていないように、
何やら目を閉じて考え事をしていた。
そして、目を開けると、受験老人をにらむように見た。
「あれから、ちょっと考えたんだけど、あんたをこのまま帰しても、どうせ失明する。
熱海でもどこでも、未熟な医者が未熟な治療をしても、よくなろうはずがない。
しかし、大学病院の至らぬ治療のせいでこうなったのを見るのは本当にかわいそうだ。
それなら、保証はできんが、私が手術してやろう。
もしかしたら、うまくいくかもしれん。」
受験老人は、ちょっと涙が出そうになった。
この院長は、口は悪いかもしれんが、患者のことを本当に考えてくれてるかもしれない。
歯に衣着せないその態度は、自信と、そして誠実さの表れなのかもしれない。
受験老人は、たとえ失敗したとしても、この医者に賭けてみたいと思った。
すると、院長は、手書きで何やら紙に書き出した。
「●●さんは、この病院で硝子体手術の修正手術をすることに同意する。」
そして、受験老人に署名をするよう促した。
正確には何と書いてあったか忘れた。
しかし、手書きの誓約書は初めて見た。
以前、大学病院で手術をしたとき、印刷された紙に署名したが、たしか、
「手術の結果については患者自身が責任を負う」のようなくだりがあったと思う。
それはおそらく、患者からの訴訟に備えてのものなのだろう。
だが、今回の手書きの誓約書には、そのような文言はなかったと思う。
それは、自信なのか? 誠実さなのか? それとも書き忘れただけなのか?
受験老人はサインした。今となっては、この医者と心中する覚悟だった。
「それじゃあ、明日、手術やるからね。」
明日・・・・こんだけ患者で混んでいるのに、もうやってもらえるのか。
「あんたの場合は、一刻を争うからな。」
その言葉は、ちょっと頼もしかった。
成功率が何パーセントか知らないが、それに賭けたかった。
その後、言い渡されたのは、この病院にはずっと入院できる施設はないので、
入院は最初の日だけで、その後は近くのホテルを取って療養してくれとのことだった。
大学病院で、手術の後、網膜を貼り付けるため、
ずっと高級そうな病棟に入院して、うつぶせ寝を続けたことを思い出した。
それに比べ、この軽い対応は??? ケアはそれで大丈夫なんかい???
受験老人には不安もよぎったが、もはやこの病院に下駄を預けるしかなかった。
いよいよ明日は受験老人の運命が決まる。
(次回に続く)
(12月3日)
・腕立て 37回
・腹筋 56回
・ヨガ
・筋トレ
腕立ては、4秒間隔で2分半やり続けることになる。
2分半というのは、あっという間かもしれんが、やり続けるものにとってはつらい。
たとえば、息を1分止めろというのと同じ。最後の数秒がとてつもなく長く思える。
よく頑張れるなあ。自分に感心。
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