受験老人日記~高齢で医学部と司法試験に大挑戦~

還暦を迎えた男が、医学部と司法試験を同時に合格することを目指すという無謀な冒険に乗り出した

よい医者、悪い医者(15)

(前回の続き)
失明同然になっている目を抱え、大学病院から2通の紹介状をもらった受験老人。
もう1週間先には、受験老人がネットで探し出した横浜の病院に行くことになる。
だが、せっかくだから、もう1つ紹介状をもらった、熱海の病院にも行ってみよう。
そう考えて、熱海の病院に予約した。
予約日は奇しくも、横浜の病院の予約日の前日になった。


・・・・とにかく、どちらでもいい。助けてもらいたい。
受験老人は片目のまま、祈っていた。
眼は既に眼帯を外してもよかったのだが、実際に目を開けるとムンクの世界が広がる。
片方だけつぶっているのが面倒で、眼帯を続けていた。


ただ、さらに気になることが起こりつつあった。
残った右目の方も、何やら調子がおかしいのである。
もちろん、0.02のど近眼で、そもそもよく見えていないのだが、
少なくとも、近くはよく見えていたはずだった。
ところが、この頃になって、直線がちゃんと直線に見えなくなってきた。
端の方が曲がって見えるのである。
しかも、その歪みは次第に大きくなってきていた。
これは・・・・もしかして右目もダメになったか。
そうなると、完全に盲目だ。
受験老人の心に暗雲が垂れ込めた。


さて、熱海の病院の診察日になった。
受験老人は、朝から鈍行に乗った。
受験老人のどんよりした心とは真逆に、雲一つない空が広がっていた。
そして、熱海が近づくと、車窓に海が広がった。
受験老人は駅に降り立った。
20分ほど歩いただろうか、海沿いにきれいな病院があった。
ここに入院している患者は、温泉に入れるんだろうかな。
そんな呑気なことを思った。


朝一番で予約し、一通り検査をやった。しかし診察までずいぶん待たされた。
他の患者がほとんどいなくなった後、最後に呼ばれた。
先生は、なかなかイケメンの、脂ののった医師だった。


その医師は言った。
「あなたの目は、完全に治すことはできない。網膜がよじれまくっている。
それはもう、あきらめるしかない。
ただ、少しでも、今の状態を軽減することができる。
まず網膜に穴をあけて、強制的に網膜剥離を起こさせる。
その後、目玉つまり硝子体に、今入っている水よりもっと重い液体を入れる。
そうすれば、その重みで網膜が戻る。網膜の皺も少しは伸びるはずだ。」


網膜剥離の再手術ができるという話は、受験老人がこれまで調べた中ではなかった。
だから、その医師が神様のように見えた。
手術のことを、ずいぶん時間をかけて微に入り細に入り説明してくれた。


「ただし」と医師は続けた。
「あまり、完全に治ると期待してもらっては困る。
せいぜい、歪みが半分くらいになるだけだ。」


それでも、今のままよりも、だいぶん良くなるのなら、ありがたいと思った。
「先生、もう一つ、横浜の民間病院に行こうかと思っているのですが。」
受験老人は正直に話した。
すると、医師は、ちょっと嫌そうな顔をした。
「ああ。その病院のことはよく耳にはしている。硝子体手術の件数が途方もなく多い。
でも、あまりいい評判を聞かないよ。
件数が多いのは、おそらく、ごく簡単な手術だけして、件数だけを稼いでいるんだろう。
変に民間の病院に任せると、うまくいかないかもしれない。
まあ、最後はあなたの判断になるけど。」


その言葉は、受験老人の耳に残った。
明らかに、横浜の病院については否定的だった。
こんなにはっきり、医師が医師を否定するのは初めてだった。


横浜の医師は、よほど問題がある医者に違いない。受験老人はそう思った。
それに比べ、この熱海の先生なら、丁寧に手術してくれるだろう。
この歪みが半分になるだけでもありがたい。受験老人の心はこちらに傾きかけていた。


そして、その後、さらに衝撃的なことを聞かされた。


(次回に続く)


(11月30日)
・腕立て 34回
・腹筋
・ヨガ
・筋トレ
苦しくなってきた。筋トレでの筋肉の付き方が腕立ての回数増加に追い付かない。
腕立て中に元気を与えてくれる曲はないか。そろそろ松山千春の「恋」にも飽きた。
中島みゆきの「空と君のあいだに」に替えた。「家なき子」を思い出す。
当分はこれで。