よい医者、悪い医者(14)
(前回の続き)
受験老人は、大学病院の受診日の朝、窓口に電話した。
あなたの病院で手術した結果、失明しかかっている。
他の病院で診てもらいたいので、 カルテの写しをもらえないか。
すると、にこやかに応答していた窓口の女性の声が、急に固くなり、別の部署に回された。
その部署の者が出た。
そのような場合に、病院のカルテが出せるかどうか、ちょっと検討します。
電話を切った後、受験老人は不審に思った。
・・・すぐもらえると思っていたのだが、ダメなのかもしれんな。
つまり、大学病院は、他の病院にカルテを開示することにより、
医療ミスが明らかになるのを恐れているのかも。
半信半疑で大学病院に行った。
カルテをもらえるかどうか、結局事前にはわからなかった。
しかし、今日は退院後初の再検査日。とにかく、行かざるをえない。
診察では、ずいぶん待たされた。
そして、やっと受験老人の番になった。
例の上級医師は、時間をかけて診断してくれた。
いつもより心なしか、神妙になっているような気がした。
受験老人の目については、自分が失敗したとも、悪かったとも何とも、言わなかった。
しかし、もう受験老人の左目は、機能しなかった。
眼を開けても、異様に曲がりくねっているうえ、肝心の真ん中が見えないのである。
だから、常に片目を閉じている。
しかし、その医師は、診断の終わりに、受験老人に、封筒を2つ渡してくれた。
封筒にはそれぞれ、病院の名前が書かれていた。
一つは、受験老人が行こうと思っていた、民間の病院だった。
そしてもう一つは、受験老人が知らない、熱海の病院だった。
医師は言った。紹介状を用意した、と。そして、
あなたの言ってこられた横浜の民間病院については、自分は知らないので何とも言えない。
だけれど、もう一つ紹介状を書いた。
その熱海の病院は、私の信頼できる先輩がいる。
もしかしたら、あなたのような症状に対しても、何かいい方法を知っているかもしれない。
私にはできないが、その人なら、その可能性はある、と。
受験老人は疑った。
この人は、受験老人の目は、もう治らないというようなことを言っていたはずだ。
だけれど、他の病院に行くと知らされ、急に、焦ったのではないか。
自分の医療ミスが明らかになってしまうから。
それで、自分の知っている医師を紹介して、丸く収めてもらおうとしているのでは?
しかし、とにかく、2つの病院の紹介状をもらったことで、受験老人は希望が広がった。
そして、何よりも、大学病院が紹介状を出してくれたことで、ややその病院を見直した。
考えてみれば、その病院は、手術はうまくいかなかったとはいえ、
看護師や事務職員等のケアは完璧に近かった。
またこの医師も、受験老人のために可能性のありそうな医師を探してくれたのだ。
本来なら、自分の恥は隠そうとするものなのに。
ただ・・・仁医であっても、名医でなければ患者は救われない。
とにかく、紹介状をもらったどちらか一つでも、受験老人の目を治してもらえれば・・・・
藁にもすがるような思いだった。
手術後受験老人の心はいろいろ変遷したが、
やはり、治るかもしれないという希望を持てるというのは、心への大きな励みになった。
お願いだ・・・・受験老人はあまり神を信じていなかったが、
この時ばかりは、神に願いをかけた。
人はやはり、弱い生き物である。少なくとも受験老人は。
(次回に続く)
(11月29日)
・腕立て 33回
・腹筋 50回
・ヨガ
・筋トレ
ようやく腕立て回数は元に戻った。
しかし、限界に近付き、終わりごろは筋肉が悲鳴を上げつつある。
とにかく、約45年前の、大学入学時の回数(40回)をクリアするのが当面の目標。
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