受験老人日記~高齢で医学部と司法試験に大挑戦~

還暦を迎えた男が、医学部と司法試験を同時に合格することを目指すという無謀な冒険に乗り出した

経緯(10)~奇跡~

(前回の続き)


生物の問題を見て、受験老人は思った。
「これは自分向きだっ。」


受験老人の専門の、生命科学の問題が目白押しだったのである。
こんな問題があった。
「多くの生物に共通する特徴を、遺伝情報を持ち、自己増殖する以外に3つ挙げよ」
(問題は一部加工)


受験老人はこれまでいくつか、小説を書いてきた。
そのうちの1つは、主人公の中学生の男の子が、生物が大好きな転校生の女の子と出会い、また自分の周りに起きた不思議な事件を解決していくことで、命の大切さを知っていくというストーリーだった。
その一節に、生物の教師が最初の授業で
「生物って何だ。生物じゃないものとどう違うんだ。皆、自分の考えを話してごらん。」
と問いかける場面を設定した。
受験老人にとって、この問題は、まさに自分の庭に舞い降りてきたようなものだった。


これだけでなく、全ての問題は、受験老人の専門にばっちり合致するものだった。
まさに、奇跡だった。
受験老人は問題を読むのを楽しみ、また答えを書くのを楽しんだ。


分からなかった問題は1つもなく、ほぼ満点だったのではないか。


ただ、生物に浸りすぎ、もう一つの選択科目である化学を解く時間が少し足りなくなった。
だが、これも書けるところはなんとか書いた。前年と同じくらいは書けただろう。


次の日の午前中は英語だった。
受験老人は、この大学の入試において、他の科目はからきしだめでも、英語だけはいつもよくできていた。
リスニングはなく、長文読解が中心の問題は、受験老人にはよくあっている。
今回も、前回や前々回と同様、まずまずできたと思った。


筆記試験が終わったが、センター試験も含めて差し引きで考えると、
合計で前年より少なくとも30点、下手すると50点くらいはは上乗せできたと確信した。
おそらく、受かるだろう・・・・
受験老人は満足した。自分自身をほめてやりたい気持ちだった。


ただ、合格しても大学には行けぬ自分が、本当に受かってよいのかという迷いが出始めた。
若い受験生たちが医師を目指して懸命に頑張っているのに、
こんな、いいかげんな考えを持っている年寄りが受かってもいいのか。
そんな自問自答の中、午後の面接を迎えた。


(次回に続く)


(11月11日)
・腕立て 21回
・腹筋 32回
・ヨガ
・筋トレ
・水中歩行 20周


毎日毎日腕立て回数を増やしていく。これは楽しみでもあるが、辛い。
真綿で首を次第に締め付けられる思いだ。
自分なりにゴールを設定しているが、それは遥か先にある。