とっぽん事件
このブログ、現在は毎日2回、朝6時と夜8時に更新させてもらっている。
しばらくこのペースで続けていきたいが、今日だけは夜10時に更新することとした。なぜなら今回の話は読者が食事中だと気分を害するからである。(といっても夜食の方もいるかもしれない。失礼。)
現在、ブログ上では私は中学を卒業し、高校に入学したところまでになっている。今後もしばらくはこの半生記を続けていきたいが、ふと、私が幼稚園の頃の忌まわしい事件を思い出したのだ。
ある日のことである。私は幼稚園から家に帰った後、1つ上の男の子と遊びに出かけた。
田舎に住んでいたので、周りは田んぼや畑ばかりだった。そこで2人で遊んでいたが、ふとその子が言った。
「お前、これを飛び越えられるか。」と、ある場所を指したのだ。
それは幅1メートルくらいの小さな池のように見えた。なんでこんなところに池があるのかなと私は不思議に思った。
しかし、その子が軽々とその池を跳び越えるのを見て、私にもきっとできるに違いないと思った。
そして跳んだ。だが、私は踏み切る位置を失敗した。
「バチャ〜アアア〜」
私は見事にその池のようなところに落ちてしまった。
それまで池のように見えていたものが何だったのか、私はまざまざと悟った。
それは・・・・野壺、またの名を肥溜め、つまり排泄物を溜めていたところだったのだ。(私たちは子供の頃これを「とっぽん」と呼んでいた。)
昔の畑ではこうした天然肥料が一般に使われ、それが一か所に溜められていたのだ。
私の顔の前に突然、ウンチの山が出現した。しかもその肥溜めは深く、私の足は底に届かない。
「たっ、助けてぇ〜。」私は足をばたつかせつつ、叫んだ。私と一緒にいたその子がきっと私を助けてくれるだろうと思って。
ところが・・・・その子はな、なんと、その場から走って逃げていってしまったのだ。おそらく恐くなったのだろう。
私には信じられなかった。
私は足をばたつかせ、手をかきながら何とか前に進んで肥溜めの縁に手をかけようとした。
ところが・・・・いくらかいてもかいても、たどりつかない。まるで悪魔に行く手を阻まれているようだった。
私はもう必死だ。その前には道路が通っていて、車が行きかっていた。
私は声を限りに、助けてぇ、助けてぇと、叫び続けた。口に押し寄せようとするウンチを払いのけながら。
きっとその声は車の中にも届いていたに違いなかった。
ところが・・・・どの車も停まってはくれない。私をあざ笑うかのように、スピードを上げて走り去っていく。
しかも、何人か、自転車に乗った人たちも通った。しかし、私の方を一瞬見ては嫌な顔をして通り過ぎていった。
・・・・私は世の中の大人たちがどんなに無情なものであるかを、大いに悟った。
もう私のばたつきも限界に達していた。次第に体力が失われていく中で、ああ、自分は死んでしまうのだなあと、ぼんやりと思った。
ばたつくのをやめれば、その途端に口や鼻にウンチが流れ込んでくるに違いない。絶対に嫌だ。でも仕方なかった。
私は、短い人生だったなあと、子供ながらに思った。そして、父や母のことも頭をかすめた。そうして、ばたつきをやめ、あきらめようとした。
その時だった。
私は突然、ぐいっと、強い力で引き上げられた。
「お前、大丈夫か?」
それは、男の人だった。私を助けてくれたのだ。その男の人の腕も、ウンチまみれになっていた。
「ここらへんは肥溜めが多いから、気を付けにゃあおえんぞ。」
そう言うや、その人は悠然と去っていった。私にはその人が神様のように見えた。
・・・・私はこうして九死に一生を得たのだった。
その後、私が臭気をまき散らせながら家に帰ると、祖母はひどく驚いた。
そして私は川に連れて行かれ、そこで全身をごしごしと洗われた。ただその臭いはその後何日も取れなかったとか。
私の両親はその後、私の命の恩人であるその人を探し回った。新聞にも投稿した。しかしついにその人は見つからなかった。
もしまだその人が生きていれば、どんなに感謝してもしきれない。それが叶わないならば、せめて他の人にその恩を返すしかないと思っている。
その後、私はプールで顔をつけるのが怖くなり、なかなか水泳が上達しなかった。
中学校の時の水泳のテストでも、決して頭をつけない平泳ぎと横泳ぎで50メートルを泳ぎ、皆に馬鹿にされつつも唖然とされた。
(先日、テレビ「世界の果てまでイッテQ!」で出川達郎が得体のしれない泳ぎで泳ぎ切るのを見たが、自分の泳ぎはあれにそっくりだった。)
肥溜めに落ちたのは嫌な思い出だが、昔からそのような人は幸運に恵まれるとの言い伝えがあるそうだ。
すなわち「ウンがつく」と。
まっ、お金持ちにはならなかったが、この年まで大きな病気もせず、無事に生きてこれたのは、そのせいかもしれない。
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