受験老人自作のショート・ショート
受験老人は現在、センター試験準備等で忙しく、よく考えながらブログを書く時間がない。
そこで、昔私が書いたショート・ショートを掲載する。
*****************************************************************************************
人類文明が発達し、自然界に自由に新しい法則を生み出せるような装置が発明された。
地球を美しい星にしようと考えた人類は、まず手始めに、互いに憎みあい、殺しあう世界をなくそうと考えた。
そして、こんな自然法則を成り立たせようとした。
「相手に危害を加えると、その倍の危害が自分にも加えられる。」
相手を殴ろうとすると、その瞬間に自分も2倍の強さで殴られた跡ができる。
相手を刃物で刺して血を流させると、その瞬間に自分も同じところから2倍の量血が吹き出す。
相手の首を絞めれば、自分も2倍の強さで首が絞まる。
人々はこれを「倍返しの自然法則」と呼んだ。
この「倍返しの自然法則」ができれば、きっと世の中に殺人は起こらなくなるだろうと人々は期待した。
人に危害を及ぼそうとするとき、加害者は、自分も必ず倍返しされることが頭に浮かぶ。
そうすると、寸前で思いとどまるようになると。
さて、この法則が施行される日が来た。
人類のほとんどはそれによる平和を祈りつつ、施行を示すスイッチが押された。
すると・・・・
人類はほどなく、バタバタと死んでいった。
ビフテキを焼いて食べようとした人は、その瞬間に、自分自身が丸焼けになった。
魚をむしって食べようと人は、その瞬間に、自分の体からどんどん肉が削げ落ち、血が噴き出した。
蚊に刺され、かゆいと思って叩いた人は、その瞬間に自分自身がぺちゃんこになった。
歩いていて虫を踏んづけた人は、その瞬間に自分自身がつぶれた。
つまり、この法則を施行するとき、人間以外の生物のことを全く考えていなかったのである。
慌てて、生き残った人類は、皆、草食主義に移行した。
動物さえ食べていなければ大丈夫だと。植物は切ってもふたたび生えてくるから、痛みは感じないだろうと。
そして、人々は動物を殺さないよう、ずいぶん用心して生活しようとした。
しかし・・・・やはり、人は死んでいきつづけた。
人はいつのまにか細菌を体内に取り入れ、それを免疫で駆除しようとする。それがこの自然法則に触れたのだ。細菌も生きている。
やがて、人も、動物も、そして生物に危害を及ぼす寄食性の細菌もいなくなり、この世の中には光合成細菌と植物だけが生き残った。
宇宙には、人類や動物がいなくなった地球という青と緑の星が、とびきり綺麗に輝きを放ち続けている・・・・。
****************************************************************************************
ううむ。出来はまずまずだったか。
そういえばよく似た話が星新一のショートショートにあったことを思い出した。
神様がこの世で最も嫌われる者をこの世から消す、いわゆる最後の審判を下そうとしたというストーリーで、
人々は皆、不正に儲けた金持ちや、悪徳政治家や、極悪犯人などをそれぞれ思い浮かべた。ところが・・・・
審判が下った日、人は一斉に消えた。つまり人以外の全ての生物の一致した意見として、人間は一番嫌われていたのだ。
まあ、多かれ少なかれ、人間は、自分自身以外のものに、危害を加えつつ生きている。
しかし、危害を加えたことは歯牙にもかけないか、忘れてしまう。
一方、危害を加えられた方は、覚えていて、恨みを倍増させる。
世に戦争やテロがなくならなかったり、日常生活でもいざこざがなくならないのはこのためかも。
「倍返しの自然法則」があったら・・・・
おっと、こうして善人ぶっている私こそ、知らず知らず人や他の生き物を傷つけており、真っ先に始末されるような気が。
このブログで誰かの心を傷つけぬよう、気をつけねば。
このブログへのコメントは muragonにログインするか、
SNSアカウントを使用してください。