受験老人日記~高齢で医学部と司法試験に大挑戦~

還暦を迎えた男が、医学部と司法試験を同時に合格することを目指すという無謀な冒険に乗り出した

いつか不老不死になれる?


昨日、家を出がけにテレビを見ていると、外国で顔面移植をした少女の話がニュースになっていた。


ちらりと見ただけだったので正確ではないが、だいたい以下のような話。



その少女は思い悩むことがあり、自殺を図ろうとして自分の顔を正面からピストルで撃った。


(あいにく?)弾は脳に達さず、その少女の命は助かった。


その代わり、その少女の顔の真ん中には大穴が開いた。鼻はなくなり、顔全体が陥没した。もとは可愛い顔をしていたのに、顔面崩壊で人間とは思えぬ容貌になった。



少女は再び生きようと決意したが、こんな顔では人前に出られない。人間には見えないのである。彼女も、またそれ以上に彼女の両親も思い悩んだ。


そして、両親は娘に顔面の移植手術をしてもらうことを希望した。つまり、臓器移植と同様に、死んだ人(脳死でなくてもよい?)から顔面そのものを譲り受けるのである。


何人かドナー候補がいたが、3番目のドナーがうまく適合した。


大がかりな手術チームが組まれた。そして長時間の手術の後、少女は再び、人間らしい顔を取り戻した。



・・・・こんな話である。出勤前だったのでじっくり見られなかったのが残念ではあるが。



需要が多いからか、美容整形の進歩はすごい。どんな部分でも、自在に作りかえることができるようになりつつある。


最大手であるTクリニックの院長など、私は学生時代(今から30年以上前)から知っているが、その頃よりも若返っている感じだ。


そして、韓国などは特にそうだが、日本でもプチ整形をして、それを当たり前のように公表する人も増えてきた。普通の医療になっている。(言い過ぎか?)



医学はどんどん発達している。将来的には、他人の顔を借りなくても、自分自身の顔を元通りに作りなおすことも可能になるに違いない。


最近、山中先生の樹立したiPS細胞は、実用化を目指す段階に移行している。ただその用い方としては、疾病に関するものが中心になっている。当然だろう。


だが将来的に、整形外科や形成外科の分野での需要は大きいかもしれない。損なわれたものを自分自身の細胞を用いて元通りにするのである。


美容整形の世界では、自分の好みの顔のパーツ等を、自分の細胞を用いて作り、元のパーツと入れ替えるのが当たり前になるかもしれない。



鼻や耳などを人工的に細胞を分裂させて一から作り上げるのは難しい。(以下、少し専門的な話になるが御容赦を。)


一層の細胞として、またはかたまった細胞として、または食道のような単純な構造はできるかもしれない。だが臓器や器官はとても複雑である。


最近は幹細胞を用いてオルガノイドと呼ばれる、器官の機能を持つ小型の細胞の塊を作る研究も盛んだが、実際にはそれを形のある大きな臓器や器官に作り上げるのは難しい。



私がかつて見たのはSTAP細胞の小保方さんの留学先のバカンティ教授の研究室で作られた、ヒトの耳を背中に背負ったマウスだった。異様な格好をしていた。


ただ、それは単に外部でヒトの耳の形に作った金型に軟骨細胞を撒いて、それをマウスの背中に移植したもので、耳としての機能を持つものではなかった。、



本物の耳や鼻を作り上げるには、一番の近道としては、いわゆる「動物工場」を利用するしかない。


動物工場とは、特定の臓器を作る遺伝子が欠けた動物の胚(このためその胚から子供は生まれない)に、ヒトのES細胞又はiPS細胞(その特定の遺伝子は健全)を移植する。


それによって、欠けた動物の胚の機能をヒトのES細胞やiPS細胞が補って発生・分化を続け、そうして生まれた動物は、その臓器だけがヒトの臓器に置き換わっているのである。


これなら、耳なら耳、鼻なら鼻の遺伝子が欠けたブタの胚を使って、ヒトの耳や鼻を作ればよい。


だがそんな特定の臓器や器官のみで働き、それが欠ければ生まれてこないような都合のよい遺伝子をそれぞれの臓器・器官毎に見つけるのは大変だ。


実際に現在見つかっているのは膵臓の遺伝子しかない(と思う)。



私は知らなかったが、東大と京大の合同研究チームはもっと実用に近いことをした。


彼らはまず、iPS細胞から軟骨細胞を作った。そして、その軟骨細胞を、人間の耳の形になるように形成したチューブ(体内で溶けるもの)に入れた。それをマウスの皮下に移植したのだ。


すると、移植されたチューブはマウスの体の中でゆっくりと溶け出す。そして、注入されていた軟骨細胞だけが残り、それらは融合する。


そうして、2カ月ほどでほぼ実物大の「耳介軟骨」ができあがったそうだ。先のバカンティマウスより移植に一歩も二歩も近づいたと言ってよいだろう。



一方、英国のロンドン大学では最近、患者自身の腕で「鼻」を作ることにも成功したらしい。新しく作られた鼻は匂いもわかるようになったとのこと。(真相は不明。)



このように、科学はどんどん進歩している。


ただ、残念ながら現在は限界がある。


先に話したTクリニックの院長も、あんなに若く元気そうに見えて、樹木希林と同じように体中をがんに侵されているそうである。


彼は自分自身を実験台にして、いろいろな治療法を試してやると息巻いている。そういうポジティブな生き方は羨ましい。



しかし将来は、iPS細胞による器官・組織移植により、ダメになった組織を次々に置換していくことで不老不死が実現する時代が来るかもしれない。


交換不可能だと考えられていた脳すらも、神経細胞を少しずつ移植することにより、基本人格を変えずに交換してしまうことも可能かもしれない。


まさに、美容整形のように。気に入らないなら交換していく。全てのパーツを。



将来、そうした時代になったとき、全員が死を運命づけられていた今の時代を、忌むべき原始時代だと感じるか、


それとも永遠に生きることの疲労感やもののあはれへの羨望から、自ら死を選ぶようになるか、


私にはわからない。