受験老人日記~高齢で医学部と司法試験に大挑戦~

還暦を迎えた男が、医学部と司法試験を同時に合格することを目指すという無謀な冒険に乗り出した

漢字練習ノート7冊半!


(前回からの続き) 


漢字テストで名前を書き忘れ、零点をとった私に、先生はこう言ったのだ。


「あなたは罰として、冬休みの間、教科書に出てきた漢字を全部、10回ずつ書きなさい。」


私はげっと思った。これまで習った範囲は相当ある。当時の教科書は上下巻になっていたが、上巻全部と下巻の3分の1までやらねばならない。


そんな理不尽な宿題を出した先生に対し、私は抵抗することもしなかった。



その年の冬休みは私にとって、漢字との格闘だった。


朝から晩まで、ノートに漢字を書いていった。しかも10個ずつ。


同じ漢字が出てきても、それでも繰り返して書いた。


簡単な字など、1000字くらいは書いたかもしれない。



ノートが1冊、2冊と進んだ。


紅白歌合戦のときもずっと書き続けた。


正月を迎え、三が日も過ぎた。でも終わらない。


とうとう、三学期が始まる前の日の夜になった。まだあと少し残っていた。


私は、書いているうちにいつのまにか眠ってしまっていた。



朝、起きて、「しまったあ。」と叫んだ。


だが、ノートを見ると、全部、最後まで書かれていた。


母が私の代わりに書いてくれたのだ。


これまで一度も「勉強しろ。」とも言わず、助言も与えなかった母が、


はじめて私の勉強を手伝ってくれていたのだった。


ただ字体はちょっと違っていたが・・・・。



合計、ノート7冊半になった。


私がそれを持って学校に行き、先生に見せると、先生は驚いた顔をした。


「まさか、本当にやったの・・・・。」


冗談じゃない、命令したのはあんただろ、と言いたくなった。



でも、このことがよい経験になったのは間違いない。


おかげで漢字にはすごい自信が持て、3学期には、見事漢字テストで堂々クラスで1位になった。


そして、もう一つよかったこと。


私はその後、いくつも試験を受けたが、名前を書き忘れたことは一度もない。


ショック療法になったのだろう。